本教材は、日本語によるアカデミック・ライティング力の向上を目指す方々の一助となることを目指して開発したものです。日本語中級から上級レベルの学習者を主な対象としていますが、日本語を母語とする方々にも十分ご利用いただける内容となっています。本教材で学ぶことで、日本の大学で必要とされるアカデミック・ライティングにふさわしい日本語のスタイル、適切な言語表現、説得力のある内容・構成で書くことができるようになります。大学の授業で使う場合、
日本語のレベルによって、1 学期間から3 学期間で学ぶことを想定しています。本教材の主な特長を以下に挙げます。
◆「アカデミック・スタイル」「言語表現」「内容・構成」の3 つの観点から学ぶ
Step 1 はアカデミック・ライティングにふさわしいスタイル、Step 2 は文章に関わる文法・言語表現、Step 3 は内容と構成を磨くことを中心に学びます。本教材では、まずは、アカデミック・スタイルで、実例に基づいてわかりやすくまとまりのある文章を書く練習を行い、その後、構成を工夫して内容を深め、独自性のある文章を書く練習をします。
◆実例から考え、その改善例から学ぶことで推敲力を鍛える
Step 1 とStep 2 の「考えよう」では、筆者らが計50 年以上にわたって取り組んでいる日本語教育で目にしてきた「不自然さ」が含まれた実例を示しています。どこを改善すればよいか考える活動を通じて自分の文章を見直すための力をつけ、「改善例」と「ここに注目」で問題意識を明確にし、文章を改善する方法を学びます。Step 3 では、専門家が執筆したコラムや評論から、言語表現や論理の流れを分析する活動も加わります。
◆幅広いテーマとトピックで知識を深め、論理を組み立てる力をつける
日本語レベルが上がると、書けるトピックや内容も深化していきます。そこで本教材では、課ごとにテーマを設定し、各Step ではそのテーマに関連する幅広いトピックを取り上げました。一般的・社会的な内容から専門的な内容まで扱っていますので、前のStep で学んだことも振り返りながら知識や思考を深め、書く練習を重ねることで論理を組み立てる力をつけていくことができます。
本教材で一歩ずつステップアップしていくことによって、日本語を学ぶみなさんにアカデミック・ライティング力の向上を実感していただければ幸いです。
なお、本教材は、JSPS 科研費19720119 、25370705 、15K02633 、17K18489 、18K00680 による研究成果を活かして作成しました。これらの研究活動を支えてくださった小森和子氏(明治大学)、李在鎬氏(早稲田大学)、野口裕之氏(名古屋大学)、奥切恵氏(聖心女子大学)、髙橋圭子氏(フリーランス)、林淑璋氏(台湾元智大学)、盧妵鉉氏(韓国徳成女子大学校)をはじめ、作文コーパスの構築にご協力くださった国内外の大学生の皆様、作文の評価にご協力くださった大学教員の皆様にお礼を申し上げます。また、2020 年春学期のオンライン授業で、留学生を対象とする大学の中級クラス、大学院の上級クラス、学部留学生と日本語母語の学生との共修クラスにおいて試用した際に、本教材の効果を実感させてくれた東京外国語大学、大東文化大学、法政大学大学院の学生の皆様にもお礼を申し上げます。
最後に、昨年の夏、研究発表を聞いて声をかけてくださったアスク出版の松尾花穂さんとの出会いに感謝いたします。作文教材の作成を勧めてくださり、完成まで笑顔で支え続けてくださって本当にありがとうございました。
2020 年11 月
伊集院郁子・髙野愛子
アカデミック・ライティングにふさわしいスタイルで、まとまりがある文章を書くことに慣れる
言語表現を工夫し、まとまりやつながりが明確でわかりやすい文章を書く
論理構成を整え、内容を深く掘り下げて説得力ある文章を書く
改善点を考えながら学術的な文章を書く力をつけていきます。
例えばStep1では、文末を「ふつう体」に統一(「です・ます体」を「だ・である体」)するなどのアカデミック・ライティングにふさわしい表現を学びます。
書く力をつけるためには、たくさん書いてみる必要があります。ただ、頭に浮かんだことをそのまま書くだけでは、アカデミック・ライティング(大学で必要とされる学術的な文章)の力は身につきません。本教材は、説得力のある小論文を書く力、必要な情報を組み立てて論理的なレポートを書く力をつけることを目指しています。その準備として、第 1 課では、これまでの書く活動を振り返り、作文の実例からアカデミック・ライティングに必要なスキルを考えます。
Step1:「文化・習慣の違い」 | 文末・文中のスタイル |
Step2:「日本らしさの発見」 | 指示表現・接続表現 |
Step3:「日本論・日本人論」 | 序論・本論・結論 / 中心文・支持文 |
Step1:「アナログ vs デジタル」 | 指示表現・接続表現・副詞のスタイル |
Step2:「インターネットの功罪」 | 主張の表現 / 文末のバリエーション |
Step3:「AI の光と影」 | 説得力のある論理展開 |
Step1:「自国の教育の特徴と課題」 | 名詞・動詞・い形容詞・な形容詞のスタイル |
Step2:「宿題の必要性」 | 視点・呼応の表現 |
Step3:「教育格差の是正」 | 段落と文の働き |
Step1:「ニュースの紹介」 | 助詞・引用のスタイル |
Step2:「新聞記事の紹介」 | 引用の表現 |
Step3:「複数の記事の検討」 | 客観的な根拠としての引用 |
Step1:「将来の職業選択」 | 数値に関する表現のスタイル |
Step2:「女性と労働」 | 図表・データの表現 |
Step3:「労働に関する社会的課題」 | 図表・データの利用 |
■タイトル:
日本語を学ぶ人のためのアカデミック・ライティング講座
■価格:1,600円(税別)
■仕様:B5版、168ページ、2色刷り
著者:
伊集院郁子
東京外国語大学大学院国際日本学研究院 教授
髙野愛子
大東文化大学外国語学部日本語学科 特任准教授
東京外国語大学留学生日本語教育センター 非常勤講師
法政大学大学院国際日本学インスティテュート 兼任講師